つくコム通信vol.27 弁護士による成年後見制度活用の手引(成年後見と任意後見)
皆さんこんにちは。つくコム通信は、つくばの弁護士福嶋正洋が不定期に更新している法律情報コラムです。
今回のつくコム通信のテーマは「成年後見制度の活用の手引 其の2」です。
成年後見制度とは?
具体的に成年後見制度とはどのような制度なのでしょうか。
成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって物事を判断する能力が十分でない方について、本人の権利を守る援助者を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度です。
成年後見人の役割は、本人の意思を尊重し、かつ本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、本人に代わって、財産を管理したり必要な契約を結んだりすることによって、本人を保護し、支援する点にあります。
成年後見制度の内容
では、成年後見制度の具体的な中身をみていきましょう。
成年後見制度は、大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つでできています。法定後見制度は認知症などで判断能力が不十分な方の、任意後見制度は将来認知症などになった場合に備えるためのものです。
法定後見制度の内容
まずは法定後見制度から見ていきますが、法定後見にはご本人の判断能力の程度に応じて後見、保佐、補助という3つの区分があります。
厳密な分類は置いておくとして、補助、保佐、後見の順に判断能力低下の程度が重くなっていくというふうに理解していただければいいでしょう。
具体的なイメージとしては、家族の名前が分からないなど、判断能力がほとんどないといえる場合が「後見」、日常の買い物くらいはできるけれども不動産の売買や賃貸借といった重要な法律行為をするには援助が必要な場合が「保佐」、判断能力がある程度残っていて重要な法律行為であっても本人でできないわけではないけれど、アドバイスを受けたり援助があった方がいいと思われる場合が「補助」ということになるでしょう。
ただ、実際に支援が必要な方において、「後見」「保佐」「補助」のどの類型に該当するかは、医師の診断によるところが大きいです。
後見人がどういったことをするのかといいますと、主に「財産管理」、それから「身上監護」をすることになります。
財産管理行為というのは、例えば、通帳や権利証の保管、遺産相続の手続き、年金・預貯金・生命保険といった収入の管理、生活費・税金・保険料といった支出の管理、不動産などの重要な財産の管理といったこと行うことですね。
身上監護というのは、例えば、医療機関と治療や入院の契約とその費用の支払い、老人ホーム施設への入居契約・入所手続き、それから介護保険の利用や介護サービスの契約、その他生活上の見守りを行うことです。
これらの後見事務をきちんと行うために、後見人等には、「同意権」・「取消権」・「代理権」といった権限が与えられているというわけです。
同意権というのは、本人の行おうとしていることが、本人の利益を害するものでないか注意しながら、その、本人がしようとすることを了承する権限です。
取消権とは、本人が同意のないまま1人でしてしまった契約などについて、これをなかったものとして原状に戻す権限をいいます。
代理権というのは、本人に代わって、本人のために取引や契約を行う権限のことですね。
任意後見制度の内容
次に、任意後見制度とはどのような制度なのかをご説明します。
任意後見制度とは、本人に判断能力があるうちに、将来判断能力が不十分な状態になることに備え、公正証書を作成して任意後見契約を結び、任意後見受任者を選任しておくものです。
任意後見契約においては、本人の判断能力が低下した後の療養看護・財産管理が本人の意思を尊重して行われるよう、あらかじめこれらの事務に関する具体的な内容を契約で定めておくことになります。
そして、実際に本人の判断能力が不十分になったときには、家庭裁判所に対し「任意後見監督人の選任」を申し立てることで、任意後見契約の効力を発生させることになります。
任意後見監督人というのは、後見事務が適切に行われているかどうかを監督するという職務を担うものでして、その職務の性質から、弁護士・司法書士・税理士等の専門家が選ばれています。
任意後見制度を活用することで、判断能力が衰えてきた際に、任意後見人に所有不動産の管理や預貯金の払い戻し、介護保険の手続きや福祉サービスの契約、病院の入院手続き、公共料金や諸費用の支払いといったことを代理して行ってもらうことができるようになるのです。
任意後見制度を活用する場合は、本人の判断で、自分が信頼できる任意後見受任者に後見事務を任せることができますし、また、後見事務の範囲も本人の意思にしたがって自由に定めることができます。
これに対しまして、成年後見制度の方では、成年後見人の選任を家庭裁判所が行いますので、本人が信頼している者が成年後見人になるとは限りません。任意後見制度は、自己決定権を尊重するという成年後見制度の理念に適う制度です。
ただし、「信頼できる任意後見受任者」を探すということが1つ難しい点です。
本当に信頼できる人なのかどうか、判断を誤ると大変なことになってしまう可能性もありますので、任意後見受任者を選ぶときは慎重を期すことが肝心です。
なお、公証人の認証という手続きを踏めば、後見がはじまる前に限って、任意後見受任者の了解がなくてもいつでも任意後見契約を解除することは可能です。
それから、これも注意いただきたいことですが、任意後見人には法定後見人と異なり「取消権」がありません。ですから、悪徳商法などで騙されて何か不利益な契約を結ばされてしまっても任意後見人の権限でこれを取消すことはできないということになります。
成年後見人に頼めないことについて
成年後見人ができることについて一般的なことをご説明しましたが、逆に後見人には頼めないことについても触れておきましょう。
成年後見人の仕事でご注意いただきたいのは、成年後見人の仕事が、本人の財産管理や福祉施設との契約締結などといった法律行為に関するものに限られており、食事のお世話や実際の介護行為などは成年後見人の職務には入らないということです。
後見人というのはあくまで本人を代理して契約などの行為をするものであって、介護行為自体をすることは後見人の職務には含まれません。後見人は介護をしてくれる人を決めて介護契約を結び、介護がきちんと行われているか、介護の内容に不十分な点はないかといったことを見守るのです。
保証人となったり身元引受人となったりするのも後見の事務とは別の行為ですので後見人に頼むことはできません。但し、身内の方が後見人になる場合は、身内の者としての立場で保証人や身元引受人になることはあり得るでしょう。
最近は、一定の場合(任意後見契約締結・死後事務の委任・遺言があるというような場合)には老人ホームに入居するのに身元保証人を要求しないというホームも出てきています。
身寄りがなかったり保証人となってくれる人が見当たらない場合には、このようなホームを探しておくこともいいかもしれません。
成年後見制度の活用例
次回のつくコム通信では、成年後見制度の活用例について述べたいと思います。
平成29年5月26日
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